1.なぜ、ふん尿処理をするのか

世間の環境問題に対する意識への高まりと、市街化の急速な進展の中、悪臭問題は畜産にかかわる苦情の中で最も大きなウェイトを占めています
畜産生産者の皆さんや畜産関係者である私たちは「畜産には臭いがつきものだ」と、考えるのですが、一般社会ではそのように考えていただけないのが現実です。現に悪臭防止法なる法律も制定されており、「畜産には臭いがつきもの」とは言ってられない状況になっています。
それでは、畜産につきものの臭気対策はどのようにすれば良いのでしょうか。


表8 規制悪臭物質と臭気強度別濃度
悪臭物質 物質濃度(ppm) におい
臭気強度
2.5 3 3.5
(1) アンモニア 1 2 5 し尿のようなにおい
(2) メチルメルカプタン 0.002 0.004 0.01 腐った玉ねぎのようなにおい
(3) 硫化水素 0.02 0.06 0.2 腐った卵のようなにおい
(4) 硫化メチル 0.01 0.04 0.2 腐ったキャベツのようなにおい
(5) 二硫化メチル 0.009 0.03 0.1 腐ったキャベツのようなにおい
(6) トルメチルアミン 0.005 0.02 0.07 腐った魚のようなにおい
(7) アセトアルデヒド 0.05 0.1 0.5 青ぐさい刺激臭
(8) スチレン 0.4 0.8 2 都市ガスのようなにおい
(9) プロピオン酸 0.03 0.07 0.2 すっぱいような刺激臭
(10)ノルマル酪酸 0.001 0.002 0.006 汗くさいにおい
(11)ノルマル吉草酸 0.0009 0.002 0.004 むれたくつ下のにおい
(12)イソ吉草酸 0.001 0.004 0.01 むれたくつ下のにおい
(13)トルエン 10 30 60 ガソリンのようなにおい
(14)キシレン 1 2 5 ガソリンのようなにおい

(15)酢酸エチル

3 7 20 刺激的なシンナーのようなにおい
(16)メチルイソプチルケトン 1 3 6 刺激的なシンナーのようなにおい
(17)イソプタノール 0.9 4 20 刺激的な発酵したにおい
(18)プロピオンアルデヒド 0.05 0.1 0.5 刺激的な甘酸っぱい焦げたにおい
(19)ノルマルプチルアルデヒド 0.009 0.03 0.08 刺激的な甘酸っぱい焦げたにおい
(20)イソプチルアルデヒド 0.02 0.07 0.2 刺激的な甘酸っぱい焦げたにおい
(21)ノルマルパレルアルデヒド 0.009 0.02 0.05 むせるような甘酸っぱい焦げたにおい
(22)イソパレルアルデヒド 0.003 0.006 0.01 むせるような甘酸っぱい焦げたにおい


表9 6段階臭気強度表示法
臭気強度 内容
0 無臭
0.5  
1

やっと感知できるにおい(検知関値)

1.5  
2 何のにおいかわかる弱いにおい(認知関値)
2.5  
3 らくに感知できるにおい
3.5  
4 強いにおい
4.5  
5 強烈なにおい


表10 畜産農業の悪臭の臭気強度と臭気指数の関係
業種 各臭気強度に対する臭気指数
2.5 3.0 3.5
養豚業 12 15 18
養牛業 11 16 20
養鶏業 11 14 17


(1)敵(臭気)の正体

畜舎内から発生する臭気は、主としてふん尿や飼料そして家畜の体臭です。その中でも、皆さんご存じの通り、ふん尿から発生する臭気が一番大きな問題です。確かに、粗悪なサイレージやふん尿まみれになった家畜が臭気が発生源となる場合もありますが、ふん尿から発生する臭気を抑えることが最も良い解決になります。
ふん尿由来の臭気成分は、質的には畜種による違いはほとんどなく、何十何百という臭気成分の量的なバランスの違いで各畜種毎に特有の臭気を作り上げています。

(2)臭気の発生について

皆さんは経験的に新鮮なふん尿は、さほど臭くないと思いませんか。確かに臭いことには違い有りませんが・・・・。
新鮮なふん尿から発生する臭気は時間の経過とともに変化します。これは細菌が、時間の経過とともにふん尿中の有機物を分解することが原因で、また、発生する成分は好気的(酸素が一杯)条件と嫌気的(酸素がない)条件によって異なります。
好気的条件を好む細菌は有機物を分解すると主に炭酸ガス(無臭)と水を作りますが、嫌気的条件を好む細菌はアンモニア、硫化水素などの臭気成分を多く作り出します。


図15 細菌による栄養物の分解


次に管理方法の違いによる発生臭気の差についてですが、これはふんと尿が混合している場合(ふん+尿)に比べ、ふんと尿を分離してやると臭気の発生が遅くなることも示しています。また、ふん及び尿は新鮮な時にはアンモニアの発生が少ないのですが、時間が経過するとアンモニアが多く発生することを示しています。これらのことはアンモニアだけでなく、その他の臭気成分にもいえます。


図16 アンモニア発生にみられる豚ふん尿分離効果


さらに、毎日除ふんと水洗をして畜舎を綺麗にしていれば、清掃しない場合に比べ発生する臭気の種類が少なくなります。


表11 管理方法の違いによる発生臭気の差
管理法 臭気物質
毎日除ふんと水洗 メタノール、エタノール、アセトアルデヒド、イソプチルアルデヒド、
ギ酸エチル
毎日除ふん メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトアルデヒド、
ギ酸エチル、酢酸イソプチル、インドール、スカトール
清掃せず メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトアルデヒド、
プロピルアルデヒド、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸イソオウロピル、
酢酸イソプチル、プロピオン酸イソプロピル、インドール、スカトール


以上のことから言えることは、1)畜舎を綺麗にする。2)ふん尿を嫌気的にしない。3)ふんと尿は速やかに分離する。3)速やかにふん尿の処理を行なう。以上3点が畜舎から悪臭を発生させないためのキーワードです。

(3)設備・装置による脱臭方法

畜舎については、先に3点が十分に達成できるならば、大きな問題は発生しないと考えられますが、労力や施設の構造上無理がある場合やふん尿処理施設から高濃度の臭気が発生している場合には、設備・装置による脱臭方法を検討する必要性があります。
脱臭方法には様々な方法がありますが、発生させてしまった臭気を脱臭するには多額の設備投資とランニングコストを要するものが多く、また、低コストを謳い文句にしているものは、持続効果や能力に問題があるケースが多いようです。ただ、どの方法にしても完璧な(能力、コストetc.を満たす。)ものはないのが現状です。


図17 家畜ふん尿処理法とその脱臭・防臭法



表12 畜産で用いられる脱臭・防臭法の原理、特徴と問題点

  方法 原理 特徴 問題点
(1) 水洗法 臭気ガスを水に溶解させる。なお、一定量の水に溶ける臭気成分量には限界がある。 水に溶けやすい臭気ガスに適する。 水とガスとの接触を良好にするとともに、大量の水が必要である。処理後の排水対策も必要である。
(2)

高温燃焼法

臭気ガスを700〜800℃の温度に0.3〜0.5秒間維持して酸化分解する。

高い効果が期待できる。臭気ガス濃度が高い場合に有利。 化石燃料の消費量が大きい。
低温燃焼法 臭気ガスの触媒(白金、パラジューム等)利用での250〜350℃維持による酸化分解する。 臭気ガス濃度が高い場合に有利。
低温のため装置が簡単で必要燃料が節減できる
触媒が高価である。
(3) 吸着法 活性炭、シリカゲル、活性白土、おが屑、腐植物などで臭気成分を吸着して除去する。 比較的低温度の臭気ガスに適する。 臭気成分の一定量吸着後に効果が消失する。再生利用はコスト高または困難である。
(4) 薬液処理法 酸液(希硫酸、木酢液)、アルカリ液(カセイソーダ)と臭気ガスを接触させ化学反応で除去する。 脂肪酸、アミン類などの水に溶解し易い臭気成分に適する。 化学反応処理後の廃液処理対策が必要である。薬品代にコストが掛かる。
(5)



堆肥脱臭法 発酵材料中に臭気ガスを通し、微生物の働きで臭気成分を無臭化する。 運転コストが他方式に比べて安価。
高濃度の臭気ガスに適する。
発酵材料水分が高く通気性不良の場合は不適。微生物の働きは土壌、ロックウールの場合よりも低い。
土壌脱臭法
ロックウール脱臭法

火山灰土壌、ロックウール脱臭材料等に臭気ガスを通し、微生物の働きで無臭化する。

他方式に比べて運転コストが安価。
装置の適正規模確保により高性能の脱臭が可能。
高温ガスには不適。装置面積規模は大きいが、ロックウール脱臭の場合は土壌の場合の1/5程度。
活性汚泥脱臭法 活性汚泥と臭気ガスを接触させ、汚泥中の微生物の働きで無臭化する。 低〜高温度の臭気ガスに適用可能。
汚泥特有の臭気は残る。
曝気槽利用では高濃度ガスは不適。
活性汚泥浄化施設が必要、処理後の汚泥の処理対策も必要。
(6) 空気希釈法 臭気ガスを大量の無臭空気で希釈して人間の嗅覚では感知できないようにする。 比較的低温度の臭気ガスに適する。 大量の無臭空気が必要であり、現実には無理である。
(7) マスキング法 芳香成分を臭気ガスに混ぜて、人間の嗅覚では芳香を感じさせるようにする。 比較的低濃度の臭気ガスに適する。 畜産では大量の芳香成分が必要となり、運転コスト高。
(8) オゾン酸化法

オゾンでの臭気ガスの酸化分解による無臭化。

オゾンの臭いによるマスキング効果もある、イオウ系臭気成分に効果がある。 オゾン濃度によっては呼吸器疾患の恐れがある危険なもの。
※ ( )内の数字は図4 4−5の数字と対応


(4)脱臭資材について

これまで述べてきたように、悪臭対策は畜舎清掃作業の励行、脱臭施設の整備以外に有効な対策が無いのが現状ですが、労力やコストの面から十分な対策を行うことが出来ないケースが多いようです。
このような情勢を背景として、特別な施設や労力をあまり必要としない「脱臭資材」と呼ばれる商品が多数流通しています。
しかし、脱臭資材を使用している経営者の脱臭資材に対する評価は一定ではなく、その効果についてもはっきりしていません。
確かに臭気の低減効果が認められる資材もありますが、その低減幅は畜舎環境(温度、湿度、換気、清掃状況等)の変化に伴う臭気の変動幅を超えるほどの効果ではなく、脱臭資材のみで臭気対策を完結出来るものではありません。

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