(5)堆肥化について

固形物処理として主に「堆肥化」、「乾燥」、「焼却」の3つの方法がありますが、家畜ふん尿を肥料資源として有効利用し、環境への負荷を軽減するには堆肥化を選択するのが良いでしょう。「乾燥」でも先の効果は得られますが、作物への安全性、衛生面等を考慮した場合には堆肥化に劣ります。また、「焼却」は自燃式の装置もありますが、石油エネルギー等の補充が必要であったり、排煙中の地球温暖化ガス(二酸化炭素、窒素酸化物等)、ダイオキシンなどによる環境負荷が懸念されます。
そこで、以下には堆肥化について説明します。

1)堆肥化の目的とは
家畜ふん尿は肥料成分を多く含んでおり、土壌改良効果も期待される有機質資源です。しかし、未処理のものは、搬送、貯蔵、施用等の作業性が悪く、悪臭やハエ等の発生、病原菌や寄生虫の卵が含まれる等、環境および衛生上の問題を抱えています。さらに、その利用にあたっては作物の生育障害や雑草の発生が懸念されるため、人間や作物にとって安全で取り扱いやすくする必要があります。
そのためには堆肥化処理によって、未処理のふん尿中に含まれる作物等に悪影響を与える未熟な有機物を分解・除去するとともに、発酵時に発生する発熱により病原菌や雑草の種子等を死滅させ、肥料成分を含み、悪臭の少ない堆肥を作ることです。

2)堆肥化の条件とは
堆肥化のコツは如何に好気性(酸素が必要な)微生物の活動を活発にし、微生物の働きによって未熟な有機物を分解・除去するとともに、その過程で熱が発生する条件を揃えてやることです。その条件とは栄養分、水分、空気、微生物、温度、時間です。


図8 堆肥化の基本6条件


(栄養分)
家畜ふん尿中には未消化、未吸収の分解しやすい有機物(易分解性有機物)が多量に含まれているため、微生物の栄養源として適しており、堆肥化のために特別なものを加えてやる必要はありません。栄養のバランスとしては窒素成分の比率が高いために堆肥化過程においてアンモニアガスが発生し易くなります。


(水分)
微生物が活動するためには水分が必要で、水分40%以下の乾燥状態になると、その活動が低下します。また、多すぎても通気性が悪くなると好気性微生物の活動は低下します。かなり高水分状態でも酸素の供給が十分であれば堆肥化は可能ですが、一般的には水分55〜70%程度にして通気性を良くしてやると、堆肥化が進みます。
生ふんは水分が80〜90%と非常に高いため、あらかじめ固液分離処理や予備乾燥をしたり、副資材(オガクズ、モミガラ等)の添加による水分調整が必要です。
副資材の条件としては1)吸水・保水性に優れる。2)通気性が向上する。3)安価に大量の入手が可能であることが挙げられます。
副資材としてはオガクズ、モミガラ(未粉砕、粉砕、膨軟化)が一般的ですが、戻し堆肥を利用する事例もあります。また、石川県内においてもオガクズ、モミガラの入手が困難な地域においては段ボールの利用が検討されています。


空気)
好気性微生物が増殖し、栄養源である易分解性有機物を分解するためには、酸素の供給が欠かせません。酸素の供給方法としては、堆積物の切り返し作業、ブロワーによる強制通気等が挙げられますが、一番重要なのは通気性を確保することです。また、条件によっては、水分が高い場合でも、通気性を確保することにより堆肥化を進めることが可能です。
通気性の目安として空隙率(気相率)が30%以上必要といわれており、現場では堆肥(堆積物)1m3(1m X1m X1m)の重さが500kg(容積重500kg/m3)が目安とされています。(これを満たすには固液分離したふんに未粉砕のモミガラを加えて、水分を65%程度に調整し、堆積高さを1.5m以下にする必要があります。)


(微生物)
堆肥化には好気性微生物が必要です。しかし、別に特殊な微生物を加えてやる必要はありません。ふん1g中には何と1〜10億個の微生物が生きているのです。この中の微生物に働いてもらえば良いのです。
近年、堆肥化促進資材と銘打った微生物資材が多数流通していますが、決め手に欠けるのが現状です。資材に多額のお金を投入するより、微生物が活動しやすい条件作りにお金と手間を投入して下さい。
ただ、身近なところ(自己経営内を含め)で良質堆肥が入手可能な場合は、活用するのも一案です。良質堆肥には堆肥化に有用な微生物がたっぷりと含まれています。ぜひ、活用してください。


(温度)
栄養分、水分、空気、微生物の条件が揃うと、微生物が活動して熱が発生し、堆肥の温度は70℃以上に達します。さらに60℃以上の温度が数日続くと、ふん中の病原菌、寄生虫の卵、雑草の種子などが死滅します。
このような発酵は-5℃程度からでも可能ですが、夏期の高温時に比べ、発酵の立ち上がりは遅くなります。これは堆肥化に関与する微生物が30℃以上の環境のもとで活動が旺盛になるためです。したがって、堆肥化時の堆積物の加温・保温、温風の利用等は効果的ですが、コストがかかるのが難点です。


(時間)
堆肥を作るのに必要な時間は、家畜ふんだけなら2ケ月、イナワラ等の作物残渣を混合した場合は3ケ月、オガクズ等の木質を混合した場合は6ケ月以上必要と言われていますが、製造方法により多少異なりますので、目安として下さい。



参考文献
 @家畜ふん尿処理・利用の手引き  財団法人畜産環境整備機構
 A堆肥化施設設計マニュアル  社団法人中央畜産会
 B酪農、いま環境を考える  デイリージャパン社
 C農業技術体系 畜産編  農山漁村文化協会
 D畜産環境対策大辞典  農山漁村文化協会
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