社団法人石川県畜産協会 ふん尿処理の実際 -牛のふん尿処理編-
1.牛の糞尿処理の概要
1−1 糞尿の処理方法
1−2 堆肥化処理
1−3 液肥化処理
2.牛の糞尿処理基本システム
3.施設の低コスト化へ向けての取り組み
2.牛の糞尿処理基本システム
参考資料
1.牛の糞尿処理の概要
 本章では、糞尿を有機質資源として利用するための処理技術の概要を示し、その中でも一般的に行われている堆肥化と液肥化の処理技術について、その目的とポイントを整理する。

1−1 糞尿の処理方法
 家畜糞尿は畜産から発生する産業廃棄物であり、これは生産者の責任において適正に処理されなければならない。
 糞尿の処理方法は、利用を目的としない方法、有機質資材としての利用を目的とした方法に大別できる。前者は焼却処理や浄化処理であり、後者は堆肥化や液肥化である。
 資源の有効活用の観点から、糞尿は有機質資材として農地の還元することが望ましい。糞尿を有機質資材として利用するための処理方法を図1−1−1に整理する。
 乾燥処理は、化石燃料、太陽、風などのエネルギーを利用して、糞尿中の水分を蒸発させ、乾燥糞として農業利用を図る方法である。糞尿を水分20%以下に乾燥すると臭気は減少し、微生物の活動が低下することから、長期の保存が可能となる。肥料成分が豊富に含まれる鶏糞の処理に多く使われている。
 堆肥化処理・液肥化処理は、糞尿や敷料に含まれる易分解性の有機物を、好気的な条件下で微生物に分解させ、安定した状態に処理する過程を言う。微生物が糞尿や敷料などを分解する過程で、これらの有機物に含まれる作物生育に有害な物質を除去することができる。また、分解に伴って発生する発酵熱で乾燥を促すとともに、病原菌や雑草種子の不活性化を図ることもできる。このように、糞尿は堆肥化処理、液肥化処理により、安全で扱いやすい有機質肥料となる。
 
図1−1−1 肥料利用を目的として糞尿処理の方法


1−2 堆肥化処
(1) 堆肥化の目的
 有機質資材は、土壌の化学性、物理性、生物性を改善する。特に糞尿を原料とした堆肥は、優れた資材として位置づけられている。しかし、糞尿を生のままで施用した場合、作物が生育障害を起こすおそれがある。悪臭や水質汚濁など環境汚染も心配である。糞尿は、作物への障害要因を取り除いてから利用する必要がある。
堆肥化の目的は、次のように整理できる。
[1] 悪臭や汚物感を取り除き、取り扱いやすくする。
[2] C/N※1比を低下させることによって、作物の窒素飢餓を防止する。
[3] 発熱発酵を通して有害成分を分解し、病原菌や雑草種子を不活性化させる。
[4] 易分解性の成分の含量を低下させ、土壌中での急激な分解による植物の生育障害を軽減する。

(2) 堆肥化のポイント
 堆肥化のポイントは、有機物を分解する好気性微生物が活動しやすい条件を作ることである。その条件をあげると、栄養・水分・空気・温度・時間などがある。

栄養
糞尿中には、とりわけ分解されやすい有機物が多量に含まれているので、微生物の栄養については問題がない。

水分・空気
 堆肥化は、主に好気性微生物の働きによるため、水分60〜70%に調整して通気性を確保する必要がある。一般に、糞の水分は80〜90%と高く、堆肥化にあたっては、乾燥処理や水分調整資材の混合により水分を調整する必要がある。また、堆積高さを2m以下にして通気性を確保し、温度が下がったら切り返しを行い空気を補給する。

温度・時間
 栄養、水分、空気の各条件を満たして糞尿を適当な高さに堆積すると、微生物により、有機物が分解され温度が上昇する。分解能力は温度に大きく左右され、発酵温度が10℃高いと分解スピードは倍になる。腐熟過程では、糞尿中の病原菌や雑草種子を不活性化するために、60℃以上の発酵温度を数日間維持するように管理することがポイントである。
 堆肥化に要する時間は、糞だけの場合で2ヶ月、収穫残査物を加えた場合で3ヶ月、木質物を含む場合では6ヶ月程度である。

※1: C/N比:有機物中の炭素と窒素の含有比率。土壌に加える有機物のC/N比が高いと(30以上)、分解の際に土壌中の無機態窒素が微生物に利用され、作物は窒素飢餓を起こす。有機物のC/N比は腐熟化に伴って10に近づく。


1−3 液肥化処理
(1) 液肥化処理の目的
 液肥化処理の対象となる糞尿の性状は、糞と尿が混合したスラリー及び尿である。液肥化処理は、曝気によって堆肥化処理と同じように好気性微生物を活性化させ、易分解性成分を分解し腐熟させる方法である。浄化処理のようにBOD,SS、窒素、リン酸の大部分を取り除く技術ではない。生のスラリーや尿は、悪臭が強く、易分解性の生育阻害因子を含むことから、搬送・施用などが容易となり資源としての価値が高まる。
液肥化の目的は、次のように整理できる。
[1] 悪臭や汚物感を取り除き、取り扱いやすくする。
[2] 発熱発酵を通して、有害微生物や雑草種子を不活性化させる。
[3] 易分解性成分の含量を低下させ、土壌中での急激な分解による植物への障害を軽減する。
[4] 粘性を低下させ、利用価値を高める。

(2) 液肥化のポイント
 液肥化のポイントは、好気性微生物が活性化する条件を整えることである。その条件をあげると、栄養・水分・空気・温度・時間などであるが、スラリーや尿には栄養と水分がもともと備わっている。
 発酵を促すには、液中に含まれる溶存酸素量の確保と、液温の調整が必要となる。液肥の腐熟速度は、温度との相関が高く、温度が高いほど腐熟期間は短縮できる。従って寒冷地では、曝気槽の保温性を高める必要がある。
 適切な曝気処理により、20〜30日程度で悪臭のない腐熟スラリーができる。曝気処理では、施設間の移動にポンプや管路を用いるため、原材料の流動性を確保しておく必要がある。スラリー、尿に含まれている未消化の飼料や、敷き料に使われた藁等はスカムを形成し管路を閉塞させ曝気効率を低下させる。この対策として、固液分離器やフルイ機を使って、夾雑物を除去する必要がある。また、スラリーの場合、水分が95%以下になると粘度が急激に増し、曝気効率も低下することから、加水による水分調整が必要になる。

※: スカム:スラリー中に含まれる固形分(未消化の飼料、敷料などが固まったもの。)


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